研究方法

異なる波長分解能と帯域を持つ2つのシステムを同一地点に設置し、オーロラの同時撮影を行います。電子オーロラの色の定義は、低波長分解能・広帯域のスペクトル画像計測システムで行います。陽子オーロラの色の定義は、高波長分解能・狭帯域のスペクトル画像計測システムで行います。狭帯域のスペクトルは、高い波長分解能を持つ2次元スペクトロメータを用いて観測します。2次元スペクトロメータは、500本/mm2と1500本/ mm2との2種類のグレーティングを持つ回折格子型分光器で、その波長分解能は従来の干渉フィルタに比べ格段に高い波長分解能を有します。さらに回折格子を機械的に回転することで同時計測波長範囲を移動させ、380-780 nm の観測が可能です(図)。例えば、タイプbオーロラの発光メカニズムは現在5つ提唱されています。全てを検証するためにはN2+1NG (427.8 nm)、O(1S) (557.7 nm)、O2+1PG (590-600 nm)、N21PG (620-690 nm, 1 nm分解能)の輝線とバンドをほぼ同時に計測することが必要です。

本装置ではN21PGバンドを同時に分別することが可能で、タイプbオーロラの発光メカニズムとしてあげられている全ての候補を検証することができます。これは従来の干渉バンドパスフィルタを用いた観測では難しいことです。通常のスペクトロメータはスリットに並行方向の1次元の像のスペクトルしか得られませんが、2次元スペクトロメータは、ガルバノミラーでスリット垂直に 光線を高速移動(スキャン)し、2次元の像のスペクトルが得られる装置です。1スキャンでスリット並行方向と垂直方向の、2次元の波長スペクトルの像(空間2次元+波長1次元)が得られます。この狭帯域のスペクトル計測システムでは同時観測波長幅が123 nmで、波長分解能が0.312 nmです。広帯域スペクトル計測システムでは同時観測波長幅が464 nmで、ピクセル波長分解能が0.92 nmです。スキャン中にオーロラが変化すると正確なスペクトル画像が得られないので、変化が速いオーロラには向かないという弱点があります。この弱点を補うために、 液晶チューナブルバンドパスフィルタを使って広帯域のスペクトル画像の計測をもう一台のシステムで行います。液晶チューナブルバンドパスフィルタは波長分解能が6-14 nmで詳細な輝線の情報は得られませんが、420 nmから730 nmの2次元画像を計測できます。2次元スペクトロメータと液晶チューナブルバンドパスフィルタを併用することで、スリットスキャン中に変化しているオーロラのトラッキングが可能となり、上記の弱点を克服できます。

図. 2次元スペクトロメータの観測波長