研究背景

 オーロラは宇宙空間から降り注ぐ粒子と超高層大気を構成する原子や分子が衝突し、エネルギーを得て放つ光の集合です。オーロラの色は原子や分子の種類やエネルギー準位で決定されます。宇宙空間から入射した電子は超高層大気を構成する原子や分子との衝突によってエネルギーを失い、やがて周辺環境と同化します。そのため初期エネルギーが高い電子は、大気密度が高い下層まで入射することが可能です。オーロラの色を決める要素は大気組成、密度、降り込み粒子のエネルギーです。例えば、最も明るいとされている緑色のオーロラは、入射電子によって励起された酸素原子が放つ波長557.7 nmの禁制線の光です(図)。

 オーロラを最初に分光したのはオングストロームで、1869年のことです。近代的なオーロラ分光観測は1950年頃にメイネルが開発したスペクトログラフに始まリます。20x20 cm、600本/mm2のグレーティングをシュミットカメラに接続し、400 nmから800〜900 nmの波長領域を撮影しました。その後、スペクトロメータによる定量的な観測が実施されています。これらは通常1次元の空間分布をスペクトルと伴に観測することができます。1960年代以降、干渉バンドパスフィルタを用いて観測対象の波長域の光子を取り出し、2次元の像を得る観測が行われています。

 現在、異なる中心波長を持つ干渉バンドパスフィルタを装着した複数のカメラを用い、多波長を同時に観測することがオーロラ観測の主流となっています。多波長同時観測により降り込み電子のエネルギー推定が行われ、オーロラの出現原因となる磁気圏構造や電子の散乱・加速機構が議論されてきました。しかし、選択した波長以外の情報は得られず、オーロラ発生メカニズムの全容解明には至っていません。

図. 飛行機から見たオーロラ