研究目的
SPICESプロジェクトは、材料組成、構造、元素分布、密度を制御するための直線型プラズマ・多重イオンビーム複合照射装置と、材料の三次元微細構造、物性に関する多角的・高精度な材料分析装置群を用いる研究プロジェクトです。これらの装置を用いて、多様で新規な材料を創成すると共に、材料の表面や内部構造と協奏する物質やエネルギー循環、核融合を始めとする過酷環境下での材料の性能や寿命を明らかにします。
また、他の中性子照射場での実験・理論研究も統合し、材料組織の画像解析で得られるビッグデータを活用するインフォマティクス研究を展開します。このインフォマティクス・材料創成・特性評価が一体化した研究フレームワークにより、材料の構造・組成などの既存のインフォマティクスで予測可能な「平衡状態図」に、物理環境の遷移に伴う材料の状態時間変化という新たな次元を加えて「非平衡定常状態図」を作り上げます。非平衡定常状態図を用いて可能となる高度な材料設計により、過酷な環境に適応する材料だけでなく、身近な工学課題を改善・解決する、高性能かつ長寿命な材料の創成が可能となります。
さらに、プラズマと重イオンビームの同時照射により核融合炉壁へのプラズマと中性子の同時照射環境を模擬し、核融合炉におけるプラズマと壁の相互作用研究を進めます。従来行われてきた中性子照射材やイオンビーム照射材へのプラズマ照射による研究成果と合わせて、同時照射の効果を明らかにするとともに、核融合炉におけるプラズマ・壁相互作用モデリングの信頼性を高めます。
以上のとおり、SPICESプロジェクトでは、複合同時照射・高精度分析装置とインフォマティクス研究との相乗により、以下のような過酷環境における物性物理、材料工学、そして、多様な社会実装可能な様々なアウトカムを目指します。
(1) 凝縮系における集団現象
高流束のエネルギー・物質の移動により、材料内部構造が非平衡状態となり、様々な準安定相、散逸構造などが形成することが知られています。これらの材料内部のエネルギー・物質輸送と連成した材料原子の集団的な運動の物理を探求します。
(2) 過酷環境と協奏し適応する材料の開発
過酷環境で起こる高流束のエネルギー・物質輸送により材料内で発生する非平衡反応を理解し、それらの機構と物性への寄与を深く理解し活用することで、非平衡反応によって自らの構造を変化させ、過酷環境に適応し、長時間安定に使用できる材料を開発します。
(3) プラズマ・複相間相互作用
プラズマ中におけるプラズマとガスおよび壁(固体・液体金属)との相互作用、壁中の粒子・エネルギー輸送を明らかにし、核融合炉内の物質循環を理解・制御します。従来行われてきた中性子照射材やイオンビーム照射材へのプラズマ照射による研究成果と合わせて、同時照射の効果を明らかにするとともに、核融合炉におけるプラズマ・壁相互作用モデリングの信頼性を高めます。