研究方法

 直線型プラズマ・多重イオンビーム照射複合装置、高精度材料分析装置群の概要を図に示します。両者はひとつの真空系に連結されており、照射した材料や材料を流出入する物質・エネルギーのその場・実時間分析を可能とします。

直線型プラズマ・多重イオンビーム照射複合装置では、先進工学施設における実機環境に近い過酷環境を作り出し、その環境下での物質やエネルギーの輸送、そしてこの輸送現象と協奏する材料の挙動を明らかにします。さらに、多重イオンビームのイオン種、エネルギー、流束や材料に係る熱負荷、粒子負荷を制御することで、材料内部にデザインされた構造、原子配置、密度分布を作り出すことも可能です。

高精度材料分析装置群は、直線型プラズマ・多重イオンビーム照射複合装置で形成される過酷環境の物理パラメータ(熱負荷、エネルギー流入、粒子束、温度)だけでなく、材料との相互作用を経て形成される物質・エネルギー輸送(表面溶融、熱拡散、水素透過、表面腐食、等)やそれに伴う材料構造の変化をその場・実時間で測定することで、過酷環境と材料の共存系における物質・エネルギー循環を評価するための装置群です。高精度な分析を実現するため、レーザーといった光学的分析だけでなく、より材料内部にアクセスできるプローブとしてX線、加速したイオンや電子を活用し、各元素の量・分布・状態を評価します。

図.SPICES装置の概要

 非平衡材料データプラットフォームは、非平衡材料データリポジトリとインフォマティクスシミュレーションで構成されています。これまで全世界的に実施されてきた材料インフォマティクス研究で構築されたデータリポジトリ、材料計算シミュレータのアウトプットデータを適切に取り入れながら、より過酷環境で出現する物理現象、例えば、加速器でのイオン照射や原子炉での中性子照射を行った材料や水素吸蔵により脆化した材料の構造解析で得られるビッグデータを活用することで、新たに非平衡材料データリポジトリを構築します。加えて、照射効果のシミュレーションコードを開発することでデータの拡充を図ります。インフォマティクスシミュレーションでは、ニューラルネットワークと統計解析を用いた材料の設計や特性評価を行います。さらに、過酷環境における物理環境データを組み込むことでより現実に近い環境での材料挙動の予測を可能とします。

非平衡材料データプラットフォームにより、材料の非平衡定常状態図を構築し、それに基づき様々な工学課題を解決・改善する最適化された材料を創成します。