研究背景

 磁場閉じ込めプラズマは、エネルギーの流出入が常に存在することで構造が維持される⾮平衡系の典型例です。このため、熱や粒子の輸送は単純な拡散則には従わず、流れ場励起を含む多様な構造形成を経て飽和状態へと至ります。また、粒子衝突周波数が低く、波動-粒子相互作用が顕著な領域では、粒子の速度分布関数がマクスウェル分布から逸脱し、分布関数ゆらぎの自由度を伴う複雑なダイナミクスが呈されます。実空間と速度空間で張られる「位相空間」には位相空間渦構造が形成され、輸送に寄与することが理論的に予測されています[P. W. Terry+, Phys. Fluids B 2, 2048 (1990)]。

 本プロジェクトでは、これまで未踏の領域であった位相空有間構造の詳細観測を、低温の基礎プラズマ装置を用いて行います。静電プローブやレーザー計測を用いた電子の速度分布関数計測と、電子ビームなどの摂動源を用いた位相空間渦の能動的励起により、基礎的なダイナミクスを明らかにします。また、密度の低い磁気圏、太陽、宇宙プラズマは無衝突である場合が多く、観測衛星などによって位相空間ホールの存在が確認されています。私たちは実験室プラズマで無衝突プラズマ特有の物性を明らかにし、観測データの解釈やモデル化に繋げることを考えています。実験プラットフォームとして、直線装置、小型トカマク装置、磁気圏型磁場配位装置などを用いる予定です。